季節の歩み 第3回 【「目標に準拠した評価」を考える】
 中学校における評価は,各教科で,いくつかの観点ごとのA,B,Cと,それをまとめた1〜5の評定で表されます。観点は教科の特性による違いはありますが,基本は「関心意欲態度」「思考」「技能表現」「知識理解」の4観点(国語は5観点)です。
 評価は,観点ごとに学習目標の達成について「十分満足できる」状況(A),「おおむね満足できる」状況(B),「努力を要する」状況(C)のいずれかで表現し,さらにそれらを総括して5段階の評定として表すことになっています。
 さらに,各観点の評価は,さらに単元ごとに細分化された指導に対応する尺度(「評価規準」と呼ばれる)で判定したABCを学期や学年の期間で積み上げて行うとされています。
 今回は,授業でのこどもの活動から評価に至る過程の実際を考えてみることにします。=2005.08.15=
《目次》
1.場面評価と期間評価
2.期間評価への集約(その1)
3.期間評価への集約(その2)
4.集約と総括のための杉システムのテクニック

  
1.場面評価と期間評価
(1) 用語について
 個別の実験,実習などでレポート,製作物,行動観察などで一人一人の生徒の様子を記録します。それを記録する際,「これができていればおおむね満足できる」,「さらにここまでできれば十分満足できる」という尺度(いわゆる「評価規準」)で,A〜Cと一人一人の生徒の活動を記録します。または,個別の活動については3段階に限定せず例えば10点満点で記録します。(この場合でも後の集約に備えて「何点以上でおおむね満足(または十分満足)できる」決めておく必要があります)このように,授業に密着して個々の場面で行われる評価をここでは「場面評価」と呼ぶことにします。
 学期末や学年末に,場面評価を積み重ね,学期単位(通知表に記入して知らせる),学年単位(指導要録にも記入して保存)にまとめた評価をここでは「期間評価」と呼ぶことにします。
 
(2) 場面評価から期間評価への集約
 理屈の上ではすべての場面評価を3段階で行うのですが,実際の活動では,5点満点,10点満点だったりします。また,複数の評価規準に対して一度の機会に評価する場合もあり得ます。定期テストはそのもっとも端的な例です。期間評価への大きく分けて2つの方法が,考えられます。
 ア 場面評価もすべて3段階に…仮に10点満点で評しても,例えば5点以上B,8点以上Aというように3段階に直します。複数規準の組み合わさった成績物は解答を分析して複数の場面評価に分解(!)します。その結果を,「場面評価のBがいくつ以上あれば期間評価をBに」などの方法で集約します。
 イ 場面評価の得点合計…各場面評価の得点を(必要な場合は個別に重みをかけて)合計し,「合計点何点以上をBとする」という基準によって期間評価を決めます。
 それぞれに,解明すべき問題があります。これについては次の項目で具体例の中で取り上げます。
 
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2.期間評価への集約(その1)
(1) 場面評価をABCの3段階で行う
場面評価ごとにABCの3段階 この例は,ある現場で実際に授業を行った結果を簡略化したものです。実験のまとめを中心としたレポートと,中間テスト・期末テストの得点から場面評価を行っています。左から4番目の「エネ(2)」と7番目の「細胞」は,テストの問題を分野,観点別に分類して解答を別々に集計したものです。それ以外は,各回の実験・観察で,その目的・方法・結果・考察を実験報告用紙に記入し,さらに自主的に学習のまとめをさせた結果を観点別に得点化したものです。
 一番左の項目は斜面上の台車の運動を記録タイマーによって調べた生徒実験の評価です。参考のために評価の実際を記します。
 関心・意欲・態度については,実験レポートに全項目記入があり,「実験の目的」が適切なら,実験方法の説明に工夫があったり,「実験のまとめ」の部分に普通では気づかないようなことがらが書いてあった場合ににします。(教師の手元に残した実験中の生徒の活動メモと記述を照合して,評価します)
 科学的思考については,報告書の「まとめ」の部分が,実験結果の記述とかみあっていて,実験のねらいに対応していれば,既習事項との関連に触れていたり,学習の発展に結びつくような疑問が付け加えてあればです。
 観察・実験と表現については,実験の方法の記述と,教師のメモから実験方法が正しく理解でき,グラフまで書いてあれば,注意深く正確に実験を実施し,事後の作業もていねいで,適切な結果が得られていればとします。
 知識・理解は,事後学習のまとめを見て,この実験に関することがらの用語がおおむね使われていれば,さらにそれらが非常に正確に説明されたりている場合はとします。
 
(2) 期間評価への集約と問題点
各場面のABCの3段階から集約 杉システムの計算画面で作られた計算式リストについて説明します。1つ目の式1学期合計.関心=合計(斜面落下.関,…は,観点「興味・関心・態度」についての場面評価を合計しています。実は,記入されているA,B,Cには,A=2,B=1,C=0の値が割り振られていて,1学期合計.関心にはポイント化された場面評価の値が集計されます。
 5番目の式1学期観点.関=階級(1学期合計.関心,5,10)でポイント合計から期間評価への換算を行います。かっこ内の最初の項目は換算対象項目です。換算元の値が2番目の項目「5」に達しないときは換算後の値は0です。5以上かつ,3番目の項目「10」未満のときは1が関数値です。10以上のときは2が換算後の値になります。項目1学期観点.関はA,B,Cで表示する項目として定義されているので,数値1は「B」,数値2は「A」と表示されます。
 ですから,この場合,場面評価が「B5個,C2個」の場合は期間評価「B」,「B4個,C3個」の場合「C」となるようにしてあることが分かります。第一の課題はここにあります。はたして7項目5項目が「おおむね満足」で残りが「努力を要する」場合,全体として「おおむね満足」としてよいのかという問題です。1項目でも「努力を要する」のなら全体として努力を要するという考えも成り立ちますが,大部分Bなら多少Cでも「おおむね満足」でよいかも知れません。
 第二の課題は,この式では,A1個,B3個,C3個で「B」になってしまうところにあります。つまり,「1個十分満足する項目があれば他の1個の努力を要する項目を相殺できる」わけです。例示した中3の理科では個別の能力にはかなり相関性が高くAとCが共存するのはかなり特別です。しかし,体育では,陸上,球技,水泳などで能力のばらつきが大きい場合があります。「Cがいくつ以上なら期間評価もC」にするには,より複雑な計算を工夫するか,計算結果を個別に検討して適切に修正することが必要になります。
 第三の課題は,特に実技教科以外では,定期テストが評価に占める割合が大きく,数十問ある解答を解体してA,B,Cの集まりに直すには採点,記録に結構な作業量を要することです。また,膨大な作業ができないため,やむを得ず得点を大まかに段階化すると,微妙だが重要な評価の差が失われるおそれがあります。
 
(3) 期間評価を総括して5段階評定を決定する
 10番目の式で,B=1,A=2の値をそのままポイントとして,合計値によって機械的に評定を求めます。この式だと,ABBBは「3」,AAABとAABBが「4」,オールAだけ「5」となります。もし,AABBに「4」または「3」の幅をもたせようとすると,内部的に「B並」「B上」などと細分化して処理をすすめる必要があります。
 
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3.期間評価への集約(その2)
(1) 場面評価を得点のままで記録する
得点のままで場面評価 この例は,2と同様に,現場で実際に授業を行った結果を簡略化したものです。実験のまとめを中心としたレポートと,中間テスト・期末テストの得点から場面評価を行っています。定期テストは観点別に得点を集計したもので,これは複数の評価規準に対応する得点の合計を意味したものになります。
 定期テスト以外は,各回の実験・観察ごとに,その目的・方法・結果・考察を実験報告用紙に記入したものを観点別に得点化したものです。
 一番左の項目は斜面上の台車の運動を記録タイマーによって調べた生徒実験の評価です。この回の実験では「知識・理解」の評価は行っていません。評価の実際を記します。
 関心・意欲・態度については,実験レポートに全項目記入があり,「実験の目的」が適切なら1点,実験方法の説明に工夫があったり,「実験のまとめ」の部分に普通では気づかないようなことがらが書いてあった場合に2点にします。(教師の手元に残した実験中の生徒の活動メモと記述を照合して,評価します)
 科学的思考については,報告書の「まとめ」の部分が,実験結果の記述とかみあっていて,実験のねらいに対応していれば1点,学習のポイントとの関連に触れてまとめてあればいれば2点,さらに学習の発展に結びつくような疑問などが付け加えてあれば3点です。
 観察・実験と表現については,実験の方法の記述と,教師のメモから実験方法が正しく理解できていることが分かれば2点,グラフまで書いてあれば3点,注意深く正確に実験を実施し,事後の作業もていねいで,適切な結果が得られていれば5点を目安として1〜5点を与えます。
 評価規準との対応は,「関心・意欲・態度」…1点がB,2点がA,「科学的思考」…1.5点でB,3点でA,「観察・実験と表現」…3点でB,4.5点でAとしておきます。
 
(2) 期間評価への集約と問題点
得点による場面評価を集約 杉システムの計算画面で作られた計算式リストについて説明します。1つ目の式提出物等.関心=総和(斜面落下.関,…は,観点「興味・関心・態度」について,定期テスト以外のの数値による場面評価を合計しています。なお,関数総和は,空欄を値0として計算に加えるタイプの合計関数です。(合計関数は,空欄を含む場合計算を実施しません)そして4番目の式で改めてテストの得点を合計します。ひとつの式にまとめてもかまいませんが,テスト結果とその他のポイントについて,重みを調整したい場合に備えて二段階に分けてあります。
 8番目の式1学期観点.関=階級(1学期合計.関心,16,35)でポイント合計から期間評価への換算を行います。階級関数は2(2)で解説しました。換算結果の入る項目1学期観点.関はA,B,Cで表示する項目として定義されているので,数値1は「B」,数値2は「A」と表示されます。
 C〜Bの境界値16,B〜Aの境界値35は,場面評価ごとに決めておいた境界値を合計した値です。この場合の課題は,2(2)の第一の課題,第二の課題と同じく,場面評価を個別に見ると「努力を要する」があっても全体として「おおむね満足される」評価になり得るという点です。ただ,この項の方法では基本的に対応不可能です。せいぜい個別にばらつきが大きいものをピックアップして個別に修正するしかありません。むしろ「場面評価のばらつきがあったとしても,それ自体がかけがえのない個性である」という考え方に立ち,修正しないことも考えられます。つまり,仮に個々の場面で「努力を要する」評価があったとしても他に「満足される」場面がたくさんあれば全体をトータルして相応の評価を与えればよいと考えることができます。
 なお,観点の評価を評定に総括する方法は2(3)と同じです。
 
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4.集約と総括のための杉システムのテクニック
(1) 操作の方法
 今回解説した操作について,要点を列記します。詳しくは,次の項で参照ページのリストを示します。
 A,B,Cを記入する列を作る…(道具箱)[編集]→新しい列を作りたい位置で[項目設定]→[挿入]→(「ABC」があれば)[ABC]。(なければ)[]〜[]から未使用の位置→[終了]→[今まで〜上にあった〜と置き換える]→(道具箱)[入力]→[Data]→(キーボード)C[Enter]B[Enter]A[Enter]→[表(選んだ位置)]→(キーボード)ABC[Enter]→[終了]。
 整数を記入する列を作る…(道具箱)[編集]→新しい列を作りたい位置で[項目設定]→[挿入]→[]。
 計算式を作る…(道具箱)[計算]→[再生]右クリック→[計算式再生画面]。または(道具箱)[並べ替え]→[強力]→[計算]。ここで表示されたウィンドウを右クリック→[解説]を選択すると操作法を参照できます。また,計算式が表示されているときは[印刷]で計算式の一覧を印刷することができます。
 
(2) 過去の連載に見る参考事項
 過去の連載から,今回のテーマについて参考になる部分を紹介します。
 ★「目標に準拠した評価」のための操作方法:評価評定〜達人を目指す 第2回
 ★増強された計算式の編集機能の紹介:評価評定〜達人を目指す 第5回
 ☆新しい項目を作る:進路指導〜プロへの道 第2回より
 ☆属性を指定して項目を作る:オリジナル項目の列を作る(「プロへの道」第6回)
 
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