子育て中の皆様へ〜中学校教諭が現実を語る

2007.12.17  
――「理科への関心が低下」どうして?――
 「経済協力開発機構(OECD)は4日、57カ国・地域で約40万人の15歳男女(日本では高1)が参加した国際学力テスト「学習到達度調査」(PISA)の06年実施結果を発表した。学力テストで、日本は数学的活用力が前回(03年)の6位から10位となり、2位から6位に下げた科学的活用力と併せ大幅に低下した。また、理科学習に関するアンケートで関心・意欲を示す指標などが最下位になり、理科学習に極めて消極的な高校生の実態が初めて明らかになった。」〜Yahooニュース・毎日新聞12月4日18時25分配信〜
 現行の指導要領では,中学校の理科は1,2年は週3時間,3年は週約2.5時間が標準で,以前よりずいぶん削減されている。教科書を見ると,説明が極端に簡略化されていることが目立つ。例えば,夏至と冬至の南中高度の違いが,簡単な図に,わずか4行程度の説明である。2つの図から角度の大小が直感的に分かればOKということらしいが,これで生徒に分かった気になれという方が無理だ。図に補助線を加え,同位角の関係を使って緯度から南中高度を具体的に計算させ,一般的な関係を見つけて納得させるところまでもっていった方がよい。中3では数学の既習内容の応用で,そんなに困難ではない。また前提として,地球を円で表すと地平面は円の接線で表現できることも,地球儀を使って時間をかけて理解させておくことが必要である。
 やや難しいと思われる内容に踏み込むことを恐れず,生徒自身の作業を織り込み,順を追ってていねいに学習を進めることが大切である。端折って直感に訴えて分かった気にさせようとしても,理解度の低い生徒はその直感が機能せず,理解度の高い生徒は,緻密さを欠いた説明に釈然としない。これでは理科の力もつかず,関心も引き出せない。(この問題については後日,続きを述べる)

2007.06.16  
――教育再生会議は,教育を破滅させる――
 全日本中学校長会草野新会長の発言「改革は学校という船が目的地に進む際の追い風になるものでなければならないが,今度,来るであろう改革の波は嵐に近いもので,船はこまのようにクルクル回ることになるかもしれない。時には嵐の実態を知らない人からのあやふやな指示で前に進まなくてはならないこともあるだろう」(日本教育新聞2007年6月11日)は,「教育再生会議」による教育破壊を痛烈に批判している。同会議は,家庭教育へのピント外れの提言で世間の笑い者となったが,本筋では,子どもたちと子どもたちに最も身近な教師への国家統制の性急な強化を課題とする機関であることは間違いない。それでは,同会議が強化したい国家統制の,目的は何か?
 政権政党はホームページで,めざす憲法改正の中身を「私たちの目指す9条の改正は、まず自衛隊を軍隊として位置付けることです。次に、集団的自衛権の行使も可能となるようにする必要があります」と正面から述べている。従って国家による教育の統制が,使命感をもって他国の領土で銃を持ち,国家に自らの血を奉げる人づくりを目標としていると見られても仕方が無い。日教組が長く掲げてきた「教え子を二度と戦場に送るな」というスローガンがついに現実に噛み合う時代になった。知人の校長は在職中は最後まで戦おうとしている。これから教育を担っていく教員はどうしていくか?

2007.05.25  
――だれが「徳育」を妨げているか――
 「学校再生 教師に聞け 『徳育』の教科化 学校の授業だけでは限界」(中日新聞2007年4月28日)では,子どもたちを取り巻く大人の身勝手な行動を取り上げ,小学校校長の「どんな立派な教育論を展開するよりも、社会を築く私たち大人が自らの人生を精いっぱい生きる姿を示す“鏡育”が必要ではないか」との声を紹介している。では,リーダーとして最も規範を示すべき立場にある国のトップはどうか。
 「松岡農相 かばう首相の見苦しさ」(中日新聞2007年5月24日社説)より。「松岡利勝農相は、相変わらずの居直り答弁を繰り返した。『法に従い適切に報告している』と。疑惑の詳細はもう書き連ねる必要もないだろう。「ナントカ還元水」に象徴される、政治資金のいかがわしげな使途が問題の核心だ。〜中略〜首相の答弁もまた“壊れたレコード”であった。『農相は法に基づいて説明している』。」
 「書き連ねる必要もないだろう」という「疑惑の詳細」をあえて再確認する。「政治資金収支報告書によると、松岡農水相の資金管理団体は、水道代や冷暖房費が無料の議員会館に事務所をおきながら、二〇〇一年から〇五年までの五年間に約二千八百八十万円の光熱水費を計上しています。」(しんぶん赤旗2007年3月11日)
 「政治と金」というと,選挙のたびに票の「買収」事件の逮捕者が出ることがすぐに思い浮かぶ。政治資金のうち,やましさのある金を,法律で認められた「事務所光熱費」の項目で処理しているのではないかという直感は,小学生でももつだろう。そして,日ごろから大人に感じている「口ではきれいごとを言うが,実際やることは違う」イメージが一層増幅されるのである。

 そんな閣僚を庇い続ける,総理大臣のリーダーシップを発揮して立ち上げた「教育再生会議」は,「徳育」の正式教科化で合意した。しかし,「これを放置して憲法や教育を語る資格はあるか。」(前出の社説より)という批判は当然である。

2007.03.24  
――卒業式を迎えた子どもの姿から思う――
 卒業式を終えた。クライマックスは卒業式の答辞。例年になくしっかり冷静に読み進む女子生徒あったが,もうすぐ読み終わるところでとうとうこらえきれず涙声に…。卒業生一同涙,涙…。これまで答辞を何十回も聞いたが,内容は,修学旅行での友達との交流や,学級対抗合唱コンクールや体育大会の応援活動など,行事に取り組んだ思い出がほとんど。授業やテストは,全く触れられないか,かろうじて添え物だ。しかし,だからと言って生徒が勉強に気持ちが入ってないと否定的に見てはならない。ここには真実がある。
 第一に,学級の活動や行事は生徒にとって単なる楽しみではない。集団の中でコミュニケーション能力を形成する得がたい機会だ。だから,将来の社会の担い手を育てる活動としてしっかり位置づけ,体験を通して学ぶ場としてていねいに指導するのがよい。
 第二に,学力低下が言われる中,授業時間を確保するため行事を削減する動きについてはどうか?
 授業時間は確かに大切だが,現在でも諸外国と比べて多いという。総合学習の時間のあり方も含め,現在の時間の使い方,内容の改善が課題である。
 そしてもう一つ,お父さん,お母さん!仕事は大変だけど,子どもの気持ちや学習にもっと踏み込んで欲しい。夢をもつことの大切さを語りかけて欲しい。それが子どものやる気を引き出し,同じ時間に身の入った学習ができる。自らの夢や目標をもてず,大人の競争のために強いられた勉強では,いくら時間をかけても成果は上がらない。

2007.03.04  
――小学校6年生が訪問,校内見学――
 4月に迫った入学を前に小学校6年生を迎え入れ,簡単に校内見学。担当予定の先生が急用で急きょ案内係を引き受ける。小6生たちは,20年も昔なら緊張しきってこちこちになってやって来ただろうが,最近は全く物怖じしない。引率してきた担任の先生の,こどもたちをもう少しよそ行きにさせたいのに…という気持ちが伝わってきてちょっとやりにくい。こどもたちは,それでもちょっとざわついてる程度でまあまあおとなしい。順調に見学を続け理科室前に来たとき,そういえば今日,水素発生実験をやったことを思い出した。そこで塩酸を使った実験について話した後,次の言葉を続けた。
 「全国では,年に何件かの実験中の事故がある。中学校では小学校よりもっと難しい勉強をするから,それだけ危険な薬品も使ったりするけど,注意をちゃんと守れれば安全だよ。中学生は,それだけ大人に一歩近づくってことだね」
 …それを聞いていた小6生たちは,態度が一変。一気に引き締まり,集中する雰囲気ができ,こちらがびっくり。土間で送り出す私に,一人ひとりが礼儀正しく「ありがとうございました」と私に挨拶して小学校へ戻っていった。
 成長すればより自由になれるけど,そこには責任感が伴う。それを自覚して行動できるのが大人なんだと語りかけることによって,プライドを持たせれば前向きになる。これは昔と変わらないと思った。

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